山川惣治とStrava Art その3
Strava という自転車やウォーキングで走ったコースが線として地図上に残るアプリが世界中で使われている。そのアプリを使って地図上に絵を描く Strava Art というものがある。一種の一筆描きだ。僕は既に「トランぺッター」、「猫とネズミ」などを作ってネット上に公開しているが、その第3作目に「少年ケニヤと巨象ナンター」を作った。

これは今迄のやり方と大分違う。今迄の絵は実際に道路を正直に走って絵を描いた。しかし最新の作品ではやり方を変えてみた。世界的に有名なStrava Art を作っているカナダ人の Stephen Lund という人が居るが、この人の作品を見てみると、どう見ても道路の無いところに線が引かれている。これが出来ればどんな絵でも描けるわけだと注意して見るとある方法を思いついた。実際に自転車で走った後、一時停止のボタンを押して自転車を別の地点に移動した後再開というボタンを押す。するとさっき停止ボタンを押した画面の地図上の地点から今居る地点にぱっと直線が引けるのだ。ただし、その後実際に自転車で少し走らないといけない。つまり道のないところに線を引いた時はその前後で実走しなければならないという事だ。実走で描いた線、仮想の線、実走、仮想、と繰り返して行けば思い通りの絵が描けるという事だ。しかし、実際に道路を走って絵を書く方法より大分余計に時間が掛かる事が分かった。しかも、一時停止と再開ボタンを押す間で日が変わっても続けて絵が描けるという事を発見したので、この「少年ケニヤ」の絵には4日という日数を掛けた。時間的には17時間だが。象の上にまたがっているのが「少年ケニヤ」と呼ばれるワタル少年。象に横からライオンが飛びかかっている絵柄にしてみた。これを動画にする Relive も出来ているがどういう加減か絵が横倒しになってしまい、失敗作と言えるのでお見せするのは止めておく。
少年ケニヤは僕が子供の時から繰り返し読んだと言うか見て来た子供向けの読み物だ。山川惣治と言うイラストレイターが物語を書き、挿絵も描いて、見開き2ページに6枚の絵物語を展開する長編シリーズの一つだ。戦後の少年雑誌に連載されエラく人気のあった作品だからご存知の方も多いと思うが、「知っているよ」という方はおしなべて65歳くらいより上の人たちだと思う。文章は月並みなものだが、とにかく動物や黒人のデッサン力に関して僕はいま迄の人生でこの人の上に出る人を知らない。動物や人物の動きや表情が豊かでその多くは想像で描かれたものだと思われるが、不自然さが無く、まるでそのポーズを動物にさせて写真を撮り何枚もデッサンを重ねた上で、本番の絵を書き始めたのではないかと思わせてしまうほどだ。そうでなければここ迄自然な躍動的なポーズの動物は描けっこないのではと見る人に思わせてしまう描写力を持っているのだ。しかし、アフリカに行って、自分が絵にかきたいと思うそれぞれのポーズを何百枚分も動物にとらせた上で写真を撮っておいてそれをスケッチするとか、何万枚の無料画像をネット上で探して絵の材料にするなんて事はこの時代では無理以外の何ものでもない事を考えると、これらの絵は山川惣治の脳みその中で想像で構成され直した動物の動作であり表情なのだと考えるしかない。僕もネット上で空中に飛び上がって体をひねっている猛獣の写真を探した事があるが、全て静止画像に近いものばかりで躍動感のある写真は見つけられなかった。現代のネットでさえこれだから、終戦間もない日本でそのような写真集を手に入れるという事は考えにくい。やはり想像で書き上げたものと考えるのが妥当であろう。山川惣治の文章は、幼稚な子供向けの物語の域を出るものではないし、ケニヤの人がこれを見たら怒るであろう程未開な人種として書かれている。しかし一方、山川惣治の絵は、その的確なデッサン力がこの世に滅多に居ないほどの才能を持っている事を物語っている。そのスケッチがラフな筆致にも関わらず、あまりにも的確で、絵が好きな僕などは一枚一枚の人や動物の絵を見ながらどうしてこんな絵が想像だけで描けるのだろうとため息をつきながら見てしまう。時間をかけた丁寧な細密画調ではなく、サササッとペンを走らせただけでラフな中にも躍動感にあふれ、説得力のある的確なスケッチとしてしまうのだから僕には到底まねが出来ない。百聞は一見にしかずと言うからその挿絵をご覧に入れよう。これらのペン画に依るスピード感のあるスケッチを見ていただきたい。本当のアート以外の何ものでもない。ただ、このラフさが果たして今の手の込んだ描き方の漫画になじんでしまった日本人に理解してもらえるかは不安だが。でもこのデッサン力こそ本物の才能を持った証しなのだと力説しておきたい。




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